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フラワーエッセンス療法の自然観とその今日的意義

はじめに

フラワーエッセンス療法は1930年代にエドワード・バック(バッチ)(Edward Bach, 1986-1936)医師によって開発された自然療法です。本稿ではフラワーエッセンスの直接的な作用や効果ではなく、その背景にある自然観から私たちが受け取ることのできるものは何か、またその今日的な意義は何かについて考察を試みたいと思います。

バック医師~フラワーエッセンス協会(FES)

まず、フラワーエッセンス療法のもつ自然観を理解する上で、フラワーエッセンスを世に送り出したバック医師と、その業績をさらに発展させたフラワーエッセンス協会(Flower Essence Society)について確認しておきましょう。

バック医師は従来の医師として訓練を受け、細菌学を専門として経験を積みました。その治療経験の中で患者の気質が病気の治癒に大きく影響していることを見出します。後に彼はホメオパシー医となりましたが、晩年になると、従来の医学ともホメオパシーとも、作用機序の異なる新しい治療システムであるフラワーエッセンスを開発しました。心のあり方や精神状態によって、誰でも選ぶことのできる安全でシンプルな療法を自然の花に見出したのです(1)。

バック医師は自身の治療哲学を『汝、自らを癒せ』(2)の中で語っていますが、個々の花と特定の心の状態の対応関係を導き出した理論や方法については『12の癒し手とその他のレメディ』(3)の中で「ここに記述されたシンプルな方法以外、どんな科学も知識も不要だ」と述べ、ほとんど何も語っていません。その理由はこの療法が歪められて解釈されるのを避けるためだったと考えられます。また、その自然観が当時の社会に容易に受け入れられるものではなかったことが推察されます。

リチャード・キャッツ(Richard Katz)は1979年にフラワーエッセンス協会を設立し、翌年からはパトリシア・カミンスキ(Patricia Kaminski)と共に植物に関する研究とフラワーエッセンスに関する臨床研究を続けています(4)。そして、フラワーエッセンス療法のもつ自然観を、カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung, 1875-1961)の深層心理学、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749-1832)の自然研究の方法論、ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner, 1861-1925)の人智学などを導入することによって、アルケミーの世界観との関連から論じています(5)。

フラワーエッセンス療法の自然観

アルケミーはその源流を古代エジプトにまで遡ることのできる伝統的な教えです。自然の秩序は自然界と人間の両方に共有されるという理解に基づいており、自然界の形態やパターンと人間の内的な成長過程に対応関係を見出します。現代の自然科学から見れば、非金属を金に変えると主張した時代遅れの未熟な化学として一笑に付されますが、ユングは、アルケミーのシンボルが魂の変容過程について象徴的に捉えたものであり、分析家と患者の相互的な個性化のプロセスで起こる「対立物の結合」を生き生きと描き出していることを発見しました(6)。さらに、キャッツによれば、「現代文化によっては単に近代科学の原始的な前駆とみなされ、またユングによっては単に精神的ないし象徴的なものと信じられたが、アルケミーは実際には、人間・自然・宇宙の間の結びつきを認める深遠な哲学と科学活動の体系」です(7)。

フラワーエッセンス療法はこのようなアルケミーの世界観を土台とし、「人間も自然界の花も、内的世界の集合的無意識の層で、ある自然の秩序を共有している」ことを前提にしています。花(植物)と人間の内面に共通する自然の秩序は、ユング派の心理学のアーキタイプに相当するものです。図-1はその世界観とフラワーエッセンスの作用原理を模式的に表したものです。

花(植物)は自然の秩序に忠実に従って成長と衰退をくり返し、自然の秩序から外れることはありません(①)。フラワーエッセンスはその花が表現する自然の秩序を内包しています(②)。一方、私たち人間は自然の秩序に逆らって生きることが可能であり、私たちと自然の秩序とのつながりは植物のようにはいきません(③)。自然のリズムやハーモニーを失うこともあります。フラワーエッセンスは私たちと自然の秩序とのつながりを共振的に活性化する触媒としてはたらき、私たちの内面で自然の秩序がはたらくのを可能にします。それは結果的に植物と私たちの関係の質に影響を与え、自然と人間のつながりをより豊かなものにします(④)。

自然と人間の関係

フラワーエッセンス療法のもつこのような自然観から私たちが得ることのできるものは、自然との関係を再び築きなおす機会だと考えます。外側の自然との関係だけでなく、内側の自然との関係を築きなおすことができる機会です。

今日の私たちと自然との関係は、自然科学の世界観から大きな影響を受けています。自然科学は世界を対象化して客観的に捕らえることを前提とし、観測する側と観測される側との間の個別の関係を徹底的に排除することによって客観性を深め、普遍的な因果関係を明らかにしていきます。このような自然科学のアプローチが可能にした科学技術の進歩によって、現代社会は支えられているといえるでしょう。私たちは自然科学から計り知れない恩恵を受けていますが、一方で現代社会が抱える環境問題や、社会やコミュニティにおける関係性喪失という問題に目を向けると、個別の関係を排除することで成り立つ自然科学の影響を考えずにはいられません。

自然科学の視点においては、自然は私たちから切り離され、管理し操作することのできる対象です。一方、フラワーエッセンス療法の自然観では、人間と自然界の植物は内界で同じ自然の秩序を通してつながっています。自然の探求においてこのようなアプローチを行なったのはゲーテです。一般には詩人として有名なゲーテですが、自然研究にも多くのエネルギーを費やしました。ゲーテは自然をありのままに注意深く見つめ、自然が自ら語りかけてくるものを直観的に受け取ることを重視しました。そのためにはまず観察者の主観を排除して、植物が現にどのようであるかを現象学的に注意深く観察することから始めます。生きて変化し続ける植物を時間をかけて観察し、ともに過ごして植物との関係を築き、植物が語りかけてくる自然の言語に耳を傾けるという方法です。このような方法で自然につながる経験は自ずと同じ方法で人とつながる可能性の扉を開きます。

個別の関係を排除することで客観性を追及する自然科学の姿勢と、同じ自然の秩序を共有する関係を前提にするフラワーエッセンス療法の姿勢は一見相容れないように見えますが、これら2つの自然に対する異なる態度は相補的なものと捉えることができます。ユングは無意識の相補性ということを強調しました。無意識の相補性とは、自我があまりに一面的になりすぎると、無意識が自我の一面性を補うような形ではたらくことを意味します。現代社会に浸透している、自然を操作し管理する対象と見る世界観を補い、バランスをとることができるのは、フラワーエッセンス療法がその背景にもっているような自然観を通して、人の中で外側の自然と内側の自然が出会う経験であると考えます。

おわりに

日本人は季節がめぐる中で内面の世界を外側の自然に重ね合わせて歌に詠むという伝統を古くからもっていました。私たちが忘れかけている私たちの中の自然にもう一度触れる喜びを、フラワーエッセンス療法が思い出させてくれることを期待します。

フラワーエッセンス療法学会(8)では植物観察会を積極的に行なっていますが、花(植物)とのつながりをそれまでにはない形で実感した、自分自身について思いがけない気づきがあったといった報告を多くの方から得ています。フラワーエッセンス療法は通常一対一のカウンセリングを通してセッションルームの中で行われることが多いと思いますが、野外に出て、植物を観察し、フラワーエッセンスを服用して、その経験をグループで共有するという形もこの療法のもう一つの形であり、今後さらに発展していくものと思われます。

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参考文献

(1) Jessica Bear, N.D. 1993. Practical Uses and Applications of the Bach Flower Emotional Remedies. Balancing Essentials Press. 1-5.
(2) Edward Bach. 1931. Heal Thyself – An Explanation of the Real Cause & Cure of Disease.
(3) Edward Bach. 1941. The 12 Healers and other remedies.
(4) The Flower Essence Society (FES)
(5) パトリシア・カミンスキ,リチャード・キャッツ著. 王由衣訳. 2001.『フラワーエッセンス・レパートリー』BABジャパン
(6) カール・グスタフ・ユング著. 林道義、磯上恵子訳.『転移の心理学』みすず書房
(7) パトリシア・カミンスキ,リチャード・キャッツ著. 王由衣訳. 2001.『フラワーエッセンス・レパートリー』BABジャパン 48.
(8) フラワーエッセンス療法学会

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